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A local guide made by walking

インスピレーションに出くわす
イラストレーターの街歩き

Vol.06 一乗ひかる
(イラストレーター)

2022.10.10

一乗ひかるさんは雑誌や書籍の装画、広告、商品パッケージなどを手がけるイラストレーターです。ダイナミックな構図に、カラフルでポップな色使い、どこかアナログのように温かみを感じる質感。NIKE、Netflix、カルビーなど大手企業のクライアントワークで活躍し、ワン&オンリーな作風に見覚えがある人も多いでしょう。そんな一乗さんが制作のリフレッシュにしているのが散歩。活動の拠点にしている渋谷区から新宿や神楽坂、時には東京スカイツリーまで。街でふと目にしたものがモチーフになることもあるという一条さんに、渋谷区でお気に入りのルートを教えてもらいました。

イラストレーターと散歩の
密なる関係。

「私は歩くのがめっちゃ好きなんです。代々木上原や渋谷のあたりは、なにも構えずに歩いていても新しい情報が入ってくるのが楽しいですね」
 一乗ひかるさんは奥渋谷を歩きながらそう言いました。それは多忙なイラストレーターとしての息抜きであると同時に、インスピレーションを得る手段でもあるそう。
「同じ場所でも、そのとき限りの風景がありますよね。興味深いものに出合える日もあれば、出合えない日もありますが、それでも気分転換にはなりますから。モチーフを探し歩くというよりは、目的を持たずにウロウロして、気になったものがあればスマホで撮るようにしています」

顔の見える関係性を築いた
空間と人々。

 渋谷から代々木上原方面へと歩きながら、一乗さんは「stacks bookstore」をお気に入りスポットに挙げました。8月には個展「ennui」を開催。店主の山下丸郎さんに、展示がしたいと自ら声をかけたそうです。
「ギャラリーや商業施設で展示をさせてもらうのはもちろんありがたいのですが、今回は私の身近な場所でやりたかったんです。山下さんとは普段からお店に立ち寄っては話す仲。作品の額装をお願いしたのも、若林のNOTEWORKS。近い関係性のお店で、付き合いのある人たちと協力して展示をすることは、本来自然な形だろうし、私にとっても純粋に楽しい経験になりました」
 ストリートカルチャーに根ざした山下さんも、一乗さんの作品は大いに惹かれると話します。ストリートカルチャーを好きな人が見てもかっこいいと思うに違いない、と言葉を続けました。顔の見える関係性で開催する個展は、山下さんにとっても喜びだったのです。

言葉にしづらい
好きな場所と感覚。

 書店のそばでは宇田川遊歩道が延び、細い小路がクネクネと延びています。こうした道をなにも考えずに歩くのが、一乗さんの散歩スタイル。町、人、道、公園……ふとしたときになにかが目に留まるそうです。
「イラストを制作しているときはMacBookに向かいっぱなし。それで息抜きに陶芸を始めたのに、陶芸も作品になってしまいました(笑)。だから、月に1日は歩くだけの日を設けて、仕事から強制的に離れて自分をリセットするようにしています。『富ヶ谷交差点』はなんてことのない場所ですが、歩くうちに好きになっていきました。具体的なお店ではなくとも、なんとなく好きという場所や感覚を私は大事にしたいです」

バラバラだからこそ
深まる街の魅力。

「『代々木公園 ドッグラン』も散歩している最中に見つけたお気に入りスポットです。犬を飼ってはいませんが、柵の外から眺めているだけで気分転換になりますね。木々がたくさんあって日陰になるし、緑の多い場所。代々木上原の『ミレチンクエチェント』でめっちゃおいしいビスコッティを買ってこれればもう最高ですね」
 幡ヶ谷まで足を延ばせば、顔見知りの「BULLPEN」でアメリカ・ポートランドの作家の陶器や、オリジナルのフレグランススプレーをよく買うという一乗さん。挙がったお気に入りスポットは書店、道路、公園、家具・生活雑貨店などさまざま。でも、その懐の深さが渋谷という街の魅力なのかもしれません。
「このあたりはバラバラなんですよね、いい意味で。暮らす人、働く人、訪れる人みんながそれぞれやりたいことをやっている感じ。センスがあるけど、おしゃれすぎず、生活感があって、ガチャガチャはしていない。だから居心地がいいし、ふとしたときになにかがインスピレーションになる余地があるような気がします」

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Profile

一乗ひかるHikaru Ichijo
一乗ひかる Hikaru Ichijo
1989年生まれ。東京都出身。イラストレーター。東京芸術大学大学院視覚伝達研究科修了後、デザイン事務所勤務を経て、イラストやグラフィックデザインを中心に活動。第13回グラフィック「1_WALL」ファイナリスト。2022年の主なクライアントワークにNIKE BY YOKOHAMA店舗内装グラフィック、Netflix月間プログラム、カルビー「かっぱえびせん」パッケージなどがある。2021年の渋谷PARCOをはじめ、渋谷区内でたびたび個展を開催している。