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A local guide made by walking

東京で樹木の声を聴く
TOKYO TREE TREK 渋谷編

Vol.01 ルーカスB.B.
(クリエイティブディレクター・編集者)

2022.04.21

「地上で読む機内誌」をコンセプトに、世界各地の自然や文化、暮らしのなかから生まれるストーリーを、新鮮な視点で紹介しているトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』。編集長を務めるルーカスB.B.さんにとって渋谷は、都市と自然が共生するまちだと言います。その渋谷を縦貫するように延びる散歩コースが「TOKYO TREE TREK」。公園や神社、路地に佇む樹木をつないだトレイルのセクション2は、港区の有栖川宮記念公園を起点に広尾から渋谷区に入り、新宿区との境である新宿御苑へと延びています。ルーカスさんとともに渋谷のグリーンスポットをめぐる、ツリートレッキングへと出発しましょう。

「TOKYO TREE TREK」で
東京の魅力を再発見!

「いちばん好きなところね……それは絞るのが難しいなあ。歩きながら考えよう!」
 渋谷のセクションでもっとも好きなルートはどこですか。ルーカス B.B.さんにそんな質問を投げかけ、頭を悩ませてしまったところで出発した「TOKYO TREE TREK」。人呼んで「TTT」は、ルーカスさんが提唱する東京の散歩コースです。旧東海道で栄えた北品川の品川神社をスタートし、渋谷や新宿、上野、浅草を経由して、皇居でゴールするトレイルの総距離は、約55kmに上ります。
「実は東京って大都会なのに自然があふれたまち。TTTを歩けば、東京の新たな一面が見られると思うよ!」

たくさんの人が歩くことで
トレイルは本物になる。

 ルーカスさんが編集長を務める『PAPERSKY』では、2020年に第62号「TOKYO TREE TREK」特集を発売しました。まちのシンボルツリーをめぐる新感覚の東京散歩は、もとはといえば東京五輪に訪れる観光客をターゲットにしたもの。それが当初の計画とは少し異なる結果になりながら、思わぬ反響があったと言います。
「東京の読者にすごく喜んでもらえたかな。まちなかにこんなにすてきな自然があるんだと驚かれたよ。だって、たとえば日赤医療センターにこれだけ立派なアカマツがあることなんて知られていないでしょ? たくさんの人が歩くことでTTTは本物のトレイルになっていくから、みんなにどんどん歩いてもらいたいな」
 6つのセクションに分かれるTTTで、渋谷区に延びるのがセクション2です。広尾と新宿御苑を結ぶその距離は約9km。歩き出しに遭遇する日赤医療センターのアカマツは、高さが約15mに上ります。1890年以来、街の歴史を静かに見守ってきた、生き地引のような大木です。

まるで樹木を探し当てる
プラントハンターのように。

「この木は樹肌がめずらしいね。毎日散歩している道なのに、僕もいままで気づかなかったから大発見。まるでプラントハンター気分だよ!」
 日赤医療センターのアカマツをすぎ、國學院大學渋谷キャンパスのケヤキを目前にルーカスさんがそう言って足を止めたのは、渋谷区郷土博物館・文学館でのことでした。鱗状の斑模様が目を引いた大木はシロマツ。葉が3本ずつ束生し、合掌するような樹形で上に背を伸ばす、全国的にも希少な樹木です。
「いろいろな木があるからまちはおもしろいよね。森だと強い木が弱い木に勝っちゃうから、たとえばブナの森みたいに、木の種類が偏るんだよ。だからまちのトレイルこそ、木が好きな人には楽しんでもらえるんじゃないかな」

都市の自然を守ってきた
神社と樹木の密なる関係。

 TTTは渋谷最古の神社である氷川神社や、渋谷の地名の発祥である金王八幡宮へと延びています。実はこの周辺は、ルーカスさんが約四半世紀にわたり、自宅兼オフィスを構えつづけている、いわば地元なんです。
「渋谷はカルチャーがあって、おもしろい人が集まるまち。雑誌の仕事をするにはぴったりな土地だけど、暮らすには静かな時間や、心落ち着ける自然も必要だよね。それが残っているのが、このあたりのいいところ。東京のグリーンがいまも豊かなのは、神社やお寺のおかげだと思うよ。日本人が昔からそういった場所を大切にしてきたように、僕らも自然をケアしていかないといけないね」
 ルーカスさんの言葉どおり、TTTは明治神宮や鳩森八幡神社の樹木をめぐり、東京のオアシスである新宿御苑でゴールとなりました。渋谷区を縦貫する約3時間のトレイルの終わりに、冒頭の質問を再び投げかけましょう。
「やっぱり絞れないよ……新緑だけでなく、夏空のトレイルも、秋の紅葉も最高。だれがいつ歩いても、その人にとってのお気に入りが見つかる、それがTTTだから!」

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Profile

ルーカス B.B.Lucas B.B.
1971年生まれ。アメリカ・ボルティモア出身。クリエイティブディレクター、編集者。サンフランシスコで育ち、1993年に大学の卒業旅行で来日後、そのまま東京に在住。カルチャー誌『TOKION』を皮切りにキッズ誌『mammoth』、ライフスタイル誌『PLANTED』などさまざまな雑誌を手がけ、商品開発やイベント運営まで活動は多岐にわたる。2002年より発行を続ける『PAPERSKY』は現在、第65号「岩手 宮沢賢治」特集が発売中。代表取締役を務めるニーハイメディア・ジャパンのオフィスを渋谷区東に構えている。